2016年4月20日水曜日

そして誰もいなくなった/And Then There Were None (1945)


1945年
あらすじ
無人島に住む富豪の屋敷に招待された様々な職業の8人の男女。しかし、島にいたのは使用人の2人のみで家主の姿がどこにもない。実は彼らは皆過去に法では裁けない悪事に関わっており、屋敷のホスト・オーウェンは彼らを裁くために島に招待したのだった。姿を現さないオーウェンに有名な童謡に準えた手口で次々と殺されるゲストたち。その内に彼らはオーウェンの正体は自分達の中にいると気付くのだが…。


登場人物
オーウェン夫妻・・・・一行を無人島の屋敷に招いた富豪の夫婦。
クインカノン判事・・・・著名な判事。ぽっちゃり体系と丁寧な口調が特徴。職業柄か自然とまとめ役になる。
アームストロング医師・・・・著名な医者。長身の紳士。アル中。検死要員。
エミリー・ブレント・・・・貴婦人。信心深いらしく神や悪魔についてよく言及する。自分本位の言動が目立つ感じの悪いおばちゃん。
ブロア・・・・探偵。無能。序盤は鋭い洞察力を発揮したかに見えたがその実態はまさかのコメディリリーフ。すぐ「分かったぞ!」と言い出す。
ニキータ・スターロフ・・・・ロシアの坊ちゃん。職業は不詳だが音楽家とか芸人とかだと思われる。ちゃらちゃらしてる内に出番が終わる。
ロンバード・・・・いわゆる二枚目。飄々とした掴みどころのない男。ヴェラが気に入ったようでしつこく付きまとう。
マンドレイク将軍・・・・老兵。恐らく最年長で耳が遠い。妻の死から立ち直れないらしく少しボケ気味。残念ながら軍人らしい活躍は見られない。
ヴェラ・クレイソーン・・・・オーウェン夫人の秘書として派遣された美女。恐らく最も常識的な感性を持っている。ロンバードに付きまとわれて迷惑そう。
トーマス・ロジャース・・・・屋敷の使用人。立場上他の人と対等に扱ってもらえない不遇な人。おまけに「頭の形的に脳みそが少ない」とか言われる。
エセル・ロジャース・・・・屋敷の使用人。トーマスの妻。ヒステリー気味。落ちた料理を客に出す。ヴェラに話しかけられてロボットの様な返事をした。なぜか夫を苗字で呼ぶシーンがある。


アガサ・クリスティ原作。小説は未読ですが内容はかなり違う模様。何でも原作者が書いた戯曲版に基づいているとか。
孤島が舞台のサスペンスだが尺の都合か推理ものとしてはトリックなどが少しお粗末。登場人物はシチュエーションの割りにおちゃらけている面があり、人死に対して平気で洒落を言う。イギリスって感じ。こう書くと雰囲気をぶち壊しにしている駄作のように聞こえるかもしれないがそんなことはなく、ブラック・コメディのような独特の空気を作っており引きこまれてしまう。
この作品の面白いところの一つとして、様々な職業の人間が一同に会し、各々の知恵や経験、技術を絞って困難に対応する点がある。医者は検死をして死亡状況を分析し、探偵は現場の保管をしつつ捜査をして、判事は今まで多くの犯罪者を裁いてきた経験から犯人を分析する。パニック映画なんかでよく見かけるが、こういった共通点の薄い人間が多数、偶然に近い形で集まる作品では職業による専門性を持たせることで、特殊能力を持たない普通の人間を魅力的なキャラクターにすることができる。仕事の知識がプライベートで役に立つ瞬間は爽快なものである。ジョン・フォードの『駅馬車』なんかがまさにそれ。惜しむらくは前半に死んでしまうキャラにほとんど見せ場がないことだろう。当たり前だけど。もう一つ面白いのは登場人物が見事に皆胡散臭いこと。ロンバードはキャッキャしてるし、判事はやけに状況に詳しい。ブレントは誰が死のうとマイペースに感じが悪くアームストロングはアル中…といった具合に誰が犯人と言われてもおかしくない作りになっている。
原作のファンや硬派な推理ものを期待すると少しガッカリするかもしれませんがなんともクセになる一本です。

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